服従の心理
今日はこれ以上ないくらい気分の悪い映画を見ました・・・。2001年のドイツ映画、『es(エス)』です。
この映画は実際におきた事件を題材に作られているのですが、その事件とは、1971年にアメリカ・スタンフォード大の心理実験で起きた、スタンフォード大学監獄実験です。与えられた地位や役割に沿って人間の行動が決まることを証明するため、被験者をつのり、囚人役と看守役にわかれて2週間、大学地下に作られた擬似監獄で過ごさせ、観察するというもの。
実験であるにもかかわらず、あまりにも被験者が役割に過剰に適応してしまい、看守から囚人に対して人権を無視した過激なふるまいがおきました。それでも研究者は実験を中止せず、周囲の助言も聞き入れることができなくなるのですが、監獄内を見た部外者の告発で突然中止となります。人々に大きな苦しみと衝撃を残しました。
閉鎖的な場所に、圧倒的な権力と権威を持った人間と、そうでない人間が置かれると、支配者側に権力の乱用が、被支配者側に没個性化が起きるのだそうです。
これは、監獄という特殊な場所だけに起きることではありません。監獄とよく似たものに、学校、病院、施設、修道院、軍隊などがあります。近代は、肉体への野蛮な懲罰を控える代わりに、こういう効率の良い支配装置を作り出しました。
なぜこの映画を見たかと言うと、今度社会学の講義で、政治がトピックになるので、支配・服従のメカニズムを話したいからです。学生に映画を見てさらに理解を深めるのを勧めるため、まずは自分で見たのですが、なんか今も気分が悪くて、仕方がない。囚人と看守の心と身体の痛みが、私にも残っているかのようです。
こういうのを見ると、映画『カッコーの巣の上で』や『17歳のカルテ』を思い出します。どれも施設の支配と服従、そしてそこからの解放をテーマとしています。私は、この2つの映画が本当に好きで、自由を奪われることへの怒り、自分が自由であることの喜びを、感じます。『カッコーの巣の上で』は、非常に悲しい結末ですが、希望もあって、何度見ても後味が良いのです。
70年代は権力と支配への抵抗が時代の大きなテーマでした。私もこれに共感するのですが、今の学生は、どうなんだろう?私ですら、すでに社会への抵抗は時代遅れ的な世代ですから、この映画に共感できるんだろうか。映画では看守の横暴なふるまいに反抗する主人公に対し、同室の囚人が、「静かにしてろ」といさめます。口をつぐむということは、圧倒的に自分は無力であるという諦めからくるものだということを、改めて思い知りました。学生は何か心にひっかかることがあっても、口を閉ざしてしまうことが多いのですが、彼らの生きる時代の支配のメカニズムは、もっともっと巧妙になっているかもしれません。


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